美への追及〜カウンターの見付け及びディテール考察
キッチンであれ洗面化粧台であれTVボードなどの壁面収納であれ、「カウンター」と称されるパーツが存在する際、そのカウンターの選定素材は言うに及ばず見付け寸法、キャビネットとの取り合いディテールは全体の家具デザインの優劣を揺るがしかねない重要な要素と考えております。
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出来上がったキッチンや洗面化粧台の全体を見た際にカウンターはキャビネットの上面に覆いかぶさる板であり、全体としての家具の端部ディテールそのものであり視点が集まるか所だからでしょうか?
普段はある意味「感覚的に」カウンターのディテール(寸法など)を決定していたわけですが、事例を振り返り、その「感覚」に「論理的な決定要素」はあったのか?検証してゆきたいと思います。
【目次】
1:カウンターのディテール要素とは?
カウンターのディテール要素としては「下部キャビネットとの散り」「見付け」「カウンター角の形状」があげられます。
建築専門用語なので説明しますと「散り」とは、材と材の間に差がある事。つまり、カウンターの端部と下部キャビネットの同面(同じ位置)ならば散りは0。カウンターが20㎜飛び出しているなら 散りは20㎜という具合です。
「見付け」とは、材の正面部分またはその寸法の事。つまりカウンター見付けとは正面から見たカウンターの高さです。
2:カウンターの「散り」寸法について
カウンターと下部キャビネットの「散り」寸法については、感覚的ではなく、言語として既にルールがあり、「基本的には散りは0の同面納まり。カウンターの水平方向を強調する等の理由がある場合のみ「散り」を出す、つまりカウンターを飛び出させる」です。
弊社の制作事例を見ていただけばわかる通り、すべて同面納まりになっております。
前面に対しても、側面に対しても、同面納まりが違和感なくカウンターとキャビネットが組み合わされるので、特にカウンターを出すデザインを意図しないなら同面一択かと考えます。
前面に対しても、側面に対しても「散り」をとっているキッチンや洗面化粧台を見受けられますが、理由としてキャビネット、カウンター部材の制作誤差を吸収するため、あるいは設置するか所の床や壁の「ゆがみ」を吸収するため、施工難易度を下げる為なのでしょうが、「少しの手間」で同面納まりが出来るのにデザイン的観点から言えば非常にもったいないと感じます。
いくら全体としていいデザインであれ、質感・高級感のあるカウンター素材を選定しても、この「散り」があればすべて台無しになっているのではないでしょうか?
先ほどあげた弊社の事例を画像修正して「散り」を付けたのが下記写真です。
無意味な「散り」がありますと
・カウンターとキャビネットの一体感が損なわれる。
・立ち視点から飛び出したカウンター下に影ができるので余計に一体感を損なう。
・施工上の理由で止むを得なく「散り」を作っているのが、専門家でなくとも感じ取れる
・㎜単位で設計していないというのが、専門家でなくとも感じ取れる
これらの理由からデザイン性が損なわれてしまいます。
あえて、「散り」を出しカウンターラインを強調させたデザインもあります。
洗面の3事例は、あえてカウンターと下部キャビネットの扉の仕上げを変えてメリハリをつけ、さらにカウンターを少し前に出す事により横方向ラインを強調させております。また、同面ではなく「散り」を設け、外形ラインの数を増やす事により、全体のデザインテイストをモダンからクラシカル、和風へと変化させているのもご理解いただけるかと思います。
キッチンの事例は横方向への飛び出しだけですと下部キャビネットに取ってつかたような見た目になるので手前方向にも100㎜程度飛び出せることにより、カウンターの飛び出した躍動感とキャビネットとの一体感・安定感を模索した事例です。
以上のように、「どんな些細な寸法でもデザイン的意図を持たせて決定する」というのが美しいデザインを実現する上で重要かと思います。
3:カウンターの「見付け」寸法について
次にカウンターの見付け寸法について見てゆきます。洗面であれキッチンであれ過去事例をみていただければ、カウンターの見付けは様々な寸法を採用しています。
カウンターの見付け寸法を決定する上で踏まえる要素としては、「カウンター素材と下部キャビネット素材の見た目の濃度の差」「下部キャビネットのボリューム感」この二つを考慮し、全体を見て「見た目の安定感」「統一性」が最大化するカウンター見付け寸法を決定しています。
例えば、
上記のような、キャビネットが宙に浮いているフロートタイプであれば、キャビネットのボリューム感がそれほど大きくなく、カウンター材とキャビネットの柄も統一された白系統一か逆にモノトーンのようなメリハリのある組み合わせの場合が、薄見付け(人工大理石)の12㎜が「安定感」「統一性」が最大化すると考え決定しました。
逆にキャビネットが床までありボリューム感が多く、素材も木目の暖かいブラウン色の場合は、
のようにカウンターの見付けを30㎜としたほうが安定感、統一性が感じられるかと思います。特に、白単色でなく柄付のカウンターや存在感のある置型洗面器であればなおさらです。
床までキャビネットがあり色も木目のダークブラウンで カウンターは洗面器一体型の白の単色の場合、見付け12ですと、
カウンターとキャビネットとの親和性がなく安定感、統一性にかけてしまっていると感じらえるのではないでしょうか?
下記は事例を画像修正したものですが、カウンターの色を白からマーブル色にしたもの。白のままで見付けを30にしたものです。
先ほどの事例写真に比べて、「安定感」「統一性」が増していてデザイン性があがっていると感じられるのではないでしょうか?
次の事例として、
ですが、軽さを演出するため、洗面所スペースを広く感じさせるために宙に浮いたフロータイプですが2段抽斗でキャビネットの高さも550㎜程度あり木目柄ですのでボリューム感があります。ですので、カウンターの見付けは12㎜でなく24㎜を採用致しました。
この事例も先ほどの事例と同じ2段引き出しのフロートタイプでキャビネットはある程度ボリューム感があります。また扉とカウンターが同じ白なのですが置型洗面器なので上部に「重さ」「存在感」も感じられます。ですので、カウンター見付けは10㎜や12㎜の薄見付けでなく20㎜にする事により、全体の安定感を持たせられたかと思います。(実際にはコスト的にカウンター材を人工大理石でなくメラミンにしたので最少寸法は20㎜だったのですが)
以上のように、カウンターの見付け寸法を最少の10〜12㎜にするか、24㎜〜30㎜を厚みを持たせるかの判断は、「カウンター素材と下部キャビネット素材の濃度の差」「下部キャビネットのボリューム感」この二つを考慮し、全体を見て「見た目の安定感」「統一性」を持たせれる寸法にするのが美しいデザインをする上で重要かと思われます。
次に、クォーツ(人造石)やセラミック(DEKTON デクトン)のような、素材感のあるカウンターの存在感を出すデザインにするめたに、カウンター見付けを80㎜〜180㎜程度を大きくしたり、扉や側面の仕上げも同じ素材にし無垢の石に見せるデザインもございます。
これらのデザイン的意図は、カウンター素材の質感、テクスチャ、重厚感及び緊張感を全面に押し出すデザインなのですが、注意しなければならないのは、下部のキャビネットをどのようなデザイン・素材にするか?が重要です。
人は「見た目重いもの」を見た場合、その支え(下部キャビネット)が実際の構造でなく存在感が十分なのか感じとり、そうでないと感じたら「不安」を覚えます。しかし逆にその支え(下部キャビネット)の存在感が十分だと感じたら「不安」は感じませんが、その支え(下部キャビネット)自身に安定感、重厚感を感じしまい、デザイン的意図である カウンターに対して質感・テクスチャ重厚感及び緊張感を感じなくなってしまいます。
バランスがとても大事だという事です。
この事例では、石素材のカウンターに対して、必要最低限のコールテン鋼(錆び鉄)の脚を付ける事により、宙に浮いた石の塊(カウンター)に対し、安定感と緊張感を同居させる試みをしました。
この事例では、カウンターが宙に浮いているわけではありませんが、組子構造の化粧パネルと銅板着色化粧版でカウンター素材にはまけない存在感で「安定感」を木の組子という繊細な構造で「緊張感」を同居させる試みを行いました。
本洗面の事例では、円の鏡を本カウンターキャビネット一体の石の塊に組み込ませ、石の塊が単に壁面に固定されているのでなく、鏡との関係性を表現し、すごく重い塊が宙に浮いているという「不安」を取り除く試みを行いました。
「安定感」と「緊張感」
相反する感覚を同時にだせているかどうかは見る人の感性に委ねたいので、ここでは自己評価したしませんが、是非一度SRへお越しになって体感いただければと思います。
以上、カウンター見付けを10㎜〜30㎜でどのように決定しているのか?80㎜以上の見付けにする場合はどんなことに留意しているのか?について考えてきました。
4:「カウンター角の形状」について
次にカウンターディテールの重要な要素である「カウンター角の形状」について考えていきます。
まず、カウンターの見付けが30㎜であれ、100㎜であれ、カウンターそのものの厚みは20㎜でも100㎜でもありません。
基材の厚みは12㎜程度ですのでそれを留め納まりで前垂れを付けて、見た目の厚さ(見付け)を大きくしています。(注:天然石カウンターでそのものの厚みが30㎜、無垢材カウンターでそのものの厚みが80㎜などはあります)その際、このように作られているという事を知らなくとも、人は端部、角のディテールで見付け30㎜なら全て30㎜の厚みがあるように見えるか否か決まってきます。
前提として、クォーツ(人造石)やセラミック(DEKTON デクトン)は無機質な自然素材を模した材料なので「薄い厚みの板の組み合わせ」と「無垢の塊」どちらをより本物感、重厚感、高級感を感じるか?と言えば当然後者なのは感覚的にご理解いただけるかと思います。
つまり、カウンターの角の形状について、「薄い厚みの板の組み合わせ」でなく「無垢の塊」を感じさせる形状がいいディテールという事になります。
ローコスト価格帯のキッチンには金型製作のポリ系人工大理石カウンターやしぼり加工のステンレスカウンターが多く使用されています。ポリ系人工大理石カウンターで見ますと素材自体の厚みは4㎜〜6㎜なのですが、通常の見た目でその厚みを確認する事はないです。断面形状は下記になります。(水切りなどは省略しています)
対して、アクリル人工大理石で制作した断面形状は下記になります
違いとしまして。上部の角がポリ系人工大理石は金型製作なのでピン角にはできなく最低でもR2㎜程度の曲線になります。前ダレ部分も型から抜く必要があり垂直は無理で少し傾斜が出来ます。対して、アクリル人工大理石の場合、加工製作なので角は最小限の糸面トリ(0.5㎜程度)で済み前垂れ部分も垂直にできます。
この二つのカウンターを見比べたとして、この製作方法の違い、断面形状の違いを知らなくとも、また素材自体の質感を抜きにしても(アクリル人工大理石のほうが透明感を感じる色合です)アクリル人工大理石のほうを高級に感じます。なぜなら角にRがなく前垂れ部分が垂直なので 厚み40㎜の無垢素材に感じるからです。対して、ポリ系人工大理石のほうは、下側はピン角なのに上部はRがついていて、前垂れ部分も垂直でないので(0.5度程度の傾斜ですが下部のキャビネットや建築物は水平、垂直でてますので気づきます)40㎜の無垢材であると感じられないのが原因です。
クォーツ(人造石)やセラミック(DEKTON デクトン)も同じ事で、カウンター面と前垂れ面は留めになるのでですが、クォーツ(人造石)は1.5㎜の面取り セラミック(DEKTON デクトン)は3㎜の面取りになります。(セラミックでも1.5㎜の面取りでも加工できますが欠け易いので3㎜が推奨です)
よりよく見せるために重要な事は、極力面取り寸法を小さくし、上面だけでなく下面も面取りするという事です。真横から見ると下部の角も見えるのですが、上面と同じディテールにする事で無垢素材であるかのように見え重量感、本物感はあがり高級に感じます。
特にセラミック(DEKTON デクトン)の小口は柄によりますが、表面の柄模様とは異なり単色です。前垂れを付ける際はトメ納まりで面取りを最少寸法にしないと、「無垢」には見えないのでセラミックカウンターのディテールは特に重要です。
イモ納まりで小口をテーパーを取った下記の納まりだと、カウンター上面、前垂れ部分がセラミック素材の質感のある柄ですが8.4㎜のテーパー部分が単色色になってしまい、厚み40㎜の「無垢」には見えなくなるので高級感が損なわれてしまいます。
5:まとめ
以上、キッチンであれ洗面化粧台であれ、高級感を感じさせる、いいデザインに見せる為には、カウンターの「散り」「見付け寸法」「角」のディテールが重要である事をお話してきました。専門的な話でしたので、キッチンや洗面化粧台を検討されている一般の方には解りずらい話しだったかもしれません。なぜあえてこのような話をしたかと言いますと、いくら高級な素材を使用しようとも、ディテールが悪ければすべて台無しになってしまいもったいないと思うからです。
意匠をつかさどる全体のデザインや素材選定と同じぐらい「ディテールがデザインを左右する」という事を感じ取っていただければ幸いです。
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